(2002年6月1日号)

保育の質を高めるために 」

―第三者評価制度の導入を巡って―

特集 

 保育制度は改革時代といいますが、具体的な個々の保育園の課題といえば、どうなるでしょうか。例えば、待機児解消への取り組み、多様な保育サービス機能の創設、そして地域の子育て支援事業の展開などが問われています。しかし、特に社会福祉法人の保育所が忘れてならないことは、「保育の質」へのこだわりにあると、肝に銘じて自覚すべきでありましょう。ちなみに、いま待機児の解消を目指し、規制改革、規制緩和の施策がどんどん進められていますが、それは「保育の質」を保障する取り組みとリンクし、一体化したものであることが条件です。

 やがて21世紀の中枢を担う幼い子ども達ですが、残念ながら核家族の都市化されたコンビニ社会にとっぷり浸かって育てられています。その子ども達を、いわゆる見てくれのいい、ライセンス方式などマニュアル化された保育でいいのか、今こそ私達は保育のプロとして真剣に考える義務があるはずです。それが、保育の質を高めるために策定された「第三者評価」システムの導入にあるのでしょう。

 処で、保育所など福祉施設には、昔から最低基準を維持するために法による指導監査が行われてきました。しかし、それは事務や会計処理など管理部門でのチェックが中心で、保育内容の評価は不充分でした。きっと、保育の質を検証するといっても、量的評価の物差しでは測定することが難しいため、担当官から敬遠されてきたのでしょう。このため、園それぞれが保育の質を高めるために独自の判断で、採用、異動、昇給等の人事面に加え、OJT、OFF―JT、公開保育方式など、多様な研修方法を通じて、保育内容の向上を目指してきました。

 しかし仮にそれらが、良識ある自主的な取り組みであったとしても、外部の視点を排除した非公開方式による自己満足の域から脱することはできませんでした。処が、'90年代の後半から始まった一連の社会福祉基礎構造改革によって事態は一変し、新たに利用者評価という視点が急浮上してきました。即ち、福祉施設には苦情解決制度の導入など、利用者サイドからの意見、評価、クレーム等、きちんと受け入れる構図が示されたのです。

 それは、利用者あっての保育所であると自覚すれば、今までの保育観に無かった領域、新しい視点からの保育価値観を再創造するという大きな転換期になりました。しかし、利用者も一方の当事者ですので、中立性、専門性をキーワードに甲乙という当事者にない座標軸として、新たに第三者としての評価機関を求める背景が生まれてきたのです。

 平成10年、国は「福祉サービスの質に関する検討会」を発足させ、試行検討を重ねつつ、ようやくこの3月末日に最終報告の「児童福祉施設における福祉サービスの第三者評価基準等に関する報告書」をとりまとめました。そこで今回は、当初からその検討委員として、中心的な役割を担ってきた元厚生省児童福祉専門官の柏女霊峰先生にお願いし、次のコメントを寄せていただきました。  

 

 「2002年3月29日、厚生労働省雇用均等・児童家庭局に設置された児童福祉施設評価基準等検討委員会の「児童福祉施設における福祉サービスの第三者評価基準(保育所)」並びに「利用者アンケート(保育所)」が掲示されています。保育所の第三者評価基準は、「子どもの発達援助」「子育て支援」「地域の住民や関係機関等との連携」「運営管理」の4領域を評価対象とし、それぞれ24、8、9、11、全体で52の評価項目から構成されています。保育所における保育という営みが、どのような要素から構成されているかを明らかにした重要な基準といえるでしょう。

 また、報告書では、保育所における子どもを通所させている親たちに対する16項目からなる利用者アンケート票も作成されています。保育所における福祉サービスの第三者評価基準は、ほぼそのまま、自らの保育所の自己評価基準として活用が可能です。また、利用者アンケートは、自園に対する利用者の評価をみる素材として格好のものとなるでしょう。まずは、これらを保育所全体で、あるいは園長、主任、保育士一人ひとりが自ら点検してみることから始めたいものです。親たちとともにチェックしてみることも一つの方法でしょう。

 保育所の第三者評価は、これらの自己評価、利用者評価を補完するものとして、個々の保育所が望む場合に、自ら気がつきにくい事項について第三者の目を通して確認し、改善を図るための手段として考えられています。つまり、保育所の第三者評価は、事業者が自らの保育の質的向上を図るための基準となる多様な「評価」の一つの方法として提言されています。また、第三者評価は、あくまで個々の保育所が自らの保育の質の向上を図るために導入したいと望む場合に行うのであって、他から強制されて行うものではありません。

 つまり、第三者評価は、「受ける」ものではなく、「活用する」ものと考えることができるでしょう。ここで、第三者評価基準のもう一つの大きな意義について触れておきたいと思います。松岡園長には、本情報誌「であい ふれあい めぐりあい」の48号で、保育臨床学の確立と保育士業務の職務分析の必要性を述べています。私も同感です。保育という営みは、子どもの育ちと親の子育てを総合的に支援する営みであるため、ともすれば学際的になって学問的な体系化がされにくく、また保育士という専門職の専門性の中身が周りから見えにくくなりがちです。

 この第三者評価基準は、保育所における保育という営みを構成する要素を、4領域、52項目に整理したと考えることができます。保育士の業務も、この基準により明らかにすることができるでしょう。今後は、この基準を保育所、保育士さらには親たちが上手に活用することにより、保育臨床や研修の体系化、専門性の確立が進んでいく事を心から願っています。それが、現場の多くの保育所や保育所長、保育士、利用者が参画して創りあげた第三者評価基準の真の意義といえるのではないかと思っています。              

淑徳大学教授  日本子ども家庭総合研究所部長  柏女 霊峰

 柏女先生が指摘したように、第三者評価は受動的に「受ける」ものでなく、主体的に「活用する」ことによって、保育の質を高めていく手段であると自覚します。そのためにも当園では本年度、若手の保育者を中心に「第三者評価検討委員会」を立ち上げ、策定された評価基準を項目別に一つ一つ検証する作業を開始しました。何より大切なことは、全職員の意識改革によって自己改革に向けて大胆な取り組みをすることが欠かせないからです。また全体評価の一環に、利用者アンケートが用意されていますが、基本的には保育所が利用者のためにある以上、利用者から受容されない保育サービスは、評価のしようがありません。

 ちなみに昨年度は当園でも、匿名方式によるアンケートを実施しましたが、園の中からでは到底気付かなかった意見や指摘をいただき、新しい発見をした手応えが充分にあります。ただ、利用者側にも外部視点からの評価や父母が就労する条件等に偏るような弱点がありますので、普段から日常保育の意味など適格に伝えるコミニケーション関係が大切になるのです。その上で第三者評価には、具体的な保育内容など、マニュアル化すべきでないような領域をどう評価するのかが課題です。

 例えば、リスクマネージメントなど定型的な領域には、策定したマニュアルを全職員に徹底すべきですが、保育現場での具体的な取り組みなど保育の質をマニュアルで保障すべきでないと考えるからです。ちなみに、前述の保育臨床と言えば、人と人との情緒的な相互関係を基本とし、子どもとの係わりの中から組みたてる保育にあります。そうなると、問われるのが評価基準と並んで評価担当者の専門性や豊かな実務経験になるのでしょう。きっと柏女先生が指摘するように、最後は個々の保育者が行う業務の職務分析にかかってくるのでしょうか。

 いずれにせよ、いままでの保育が主観的で曖昧な部分が多くあったとすれば、これからは、いかに保育を科学していくかが課題です。それが、この調査して検証し、公表してコンサルティングしながら、保育の質を高めるための取り組み、第三者評価制度の真の意義になるのでしょう。なお、利用者が選ぶ手がかりとして第三者評価結果の公表が課題ですが、一定基準を超える保育所には星印のランク付けでなく、その園の特徴を紹介するような評価にすべきであるのではないでしょうか。

 なぜなら個々の保育所には、全国一律の金太郎飴?でなく、創設の理念、規模、沿革の歴史、地域性等によって、それぞれ育まれてきた個性が輝いているからです。

 

 

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