(2001年12月1日号)

乳幼児健康支援一時預かり事業(病後児保育)」

―育児と就労の両立を支援するために―

 

特集

 今年当園が、訪問型一時保育サービスを開始した処、その利用申込みのほとんどは在園児の病児及び病後児でした。ある程度は予測していましたが、ここまで潜在ニーズがあったとは、いささか驚いています。いま病後児保育は、子育てを支援する保育機能の核として推進されています。

 特にこの事業は、待機児解消や延長、休日など就労条件との整合化機能とは異なり、現に在園中の働く家庭を重層的に支援するのが特徴です。いいかえれば、従来の行政体質にない、純粋に働く家庭の育児条件を支える内実への取り組みとなる画期的制度です。

 病児保育史を辿ると、既に1960年代に東京のナオミ保育園や枚方の香里保育所が父母達の切実な要求を背景に、共同事業として病児保育室を開拓しています。しかしそれが公的保育制度に広がるには、まだ多くの時を要し、平成6年のエンゼルプラン以後、しかも保育園機能として許されたのは第二次エンゼルプランですから、つい昨年のことです。

 ちなみに当園は平成7年当時、駅北口の再開発事業で駅型福祉センター構想を市と協議した際、病後児保育の設置を計画しましたが、神奈川県が検討中ということで認めてもらえず、また園内自主事業では、物理的な余裕がとれずに断念した経過があります。

 いま、ひとたびインフルエンザ等が流行ると、朝の電話口は「これ以上休んだら解雇される」という切羽詰まった声の背後に子どもの泣き声が聞こえ、親の立場が痛いほど分かります。かつての祖父母同居の家庭ならともかく、父母双方が就労する核家族が普通になり、子ども達もひ弱な体質が増えたのか、年に7〜8回位は風邪をひくと言われています。

 もちろん病気最盛期の幼い子どもは、生理的、心理的に全面受容する親の保護を求め、それに応えることが大切です。しかし治療は終えても、集団保育が適切でない状態、怪我や骨折の場合、そして感染症の予後など、その単相化した育児関係や親の欠勤ストレスを考慮すれば、密室化した親子関係が必ずしも適切な状態とは言えません。

 そこに専門性を有する病後児保育が期待されるのですが、その性質上、常に一定利用が保障されないので、運営コスト面から保育機能として成立しにくい条件にあります。そこで今回は、厚生労働省の病後児保育の担当官にお願いし、次のコメントを寄せていただきました。

 

 「近年、核家族化、都市の進展、女性の社会進出の増大など、児童を取り巻く環境は大きく変化し、家庭や地域社会における子どもの養育機能の低下が指摘されている。このような中、厚生労働省では平成7年度より育児と就労の両立支援の一環として、保育所へ通所中の児童等が「病気回復期」であるため、自宅療育が余儀なくされる期間、病院、診療所、乳児院等が一時的に預かる「乳幼児健康支援一時預かり事業」を実施してきたが、昨年5ヵ年計画として策定された新エンゼルプランの中で保育所にも拡大し、同16年度までに500市町村に整備することとした。

 平成13年4月現在、実施を予定している市町村数は205市町村だが、訪問派遣型は少なく、当初予算に対し75%の実施率となり、引き続き市町村の一層の取り組みが期待される。児童の受け入れには、実施施設、協力医療機関の医師(かかりつけ医)により、対象として差し支えない旨の確認を受ける必要があるが、この医師の確認を受ける仕組みは、地域の実情に応じて保護者が利用しやすいシステムにすることが肝要である。

 特に保育所が実施する場合は、保育所とその嘱託医及びかかりつけ医との間で、対象児の病状、安静度、処方内容等の情報を含んだ連絡票の利用が望まれる。また、細かな健康管理を行うために、医療機関以外の実施施設においては、専門職として看護婦を配置することが必要であり、保育所の嘱託医は小児科医であることが望ましい。さらに対象児童が麻疹、水痘などの感染症の場合が多く、他の児童への感染(二次感染)を防止するために以下の項目を遵守する必要がある。

 

@室内の清潔を保ち、換気に配慮すること

A職員及び児童の手洗い、消毒を励行すること

B保育所で実施する場合は、出入り口、トイレ、手洗い場の全ては健康児保育室と区別すること

C利用児童の予防接種歴・感染症などの既往症を事前に把握しておくこと

D利用児童の予防接種の勧奨を行うこと

 

 なお感染防止のため万全を期することはもちろんだが、必ずしも完全防止できない場合もあることを事前に保護者に説明し、その同意を得ておくことが、不可欠である。一方、派遣方式には、特に質の確保に配慮する必要があり、経験豊かな看護婦や保育士等を確保すること、及び派遣先の児童宅で病態が急変した場合を想定し、協力医療機関との緊密な連携体制を構築することが求められる。何より温かい家庭内で、外部の目に触れない等、十分配慮した体制で実施することが大切であろう。

 今後は地域の実情に応じ、施設型、派遣型のサービスの組み合わせで普及を図っていくことが望まれる。例えば市町村は、本制度の地域住民への周知徹底を図るなど、事業の円滑、効果的な運営に努めるとともに、保護者からの徴収は今後の普及を図るためにも利用可能な費用に設定する必要があろう。また、かかりつけ医からの連絡票の利用も保護者に過重負担にならないような配慮が望ましい。

 そして国及び地方公共団体は、本事業の普及を図るために例えば、国民への啓発普及、関係機関への周知活動や研修の実施、病児保育マニュアルの活用等を通じて、本事業の推進状況を絶えずフォローし、地域の実情を考慮した弾力的な運営ができるよう努めることが大切である。なお平成12年度から保護者の病気や産後の体調不良にも(産褥期)派遣が拡大されているので、今後さらに普及に努めることを期待したい。

 

厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課

福祉係長  青木浩一

 

 いま相模原市は、新年度のモデル事業として、病後児保育制度を予算化し医師会と協議に入っています。それによると事業委託する保育園から、少し離れた利便性の高いビル内一室を借り受け、複数園が共同利用するセンター方式を目指しています。この点、先行する病後児保育所が、いずれも園内の機能と位置付けている点を考慮すれば、特に「相模原方式」として注目することができるでしょう。そのため、定員規模も通常2〜4名のところ、8〜10名程度に拡大し、利用者が少ない時は、派遣型サービスも検討中です。

 その担当する職員ですが、保育士、看護婦のほかに、病理食を担当する管理栄養士の配置が期待されますが、分園制度と同様に委託を受けた園から食事を運ぶことになります。なお施設の隔離室が必要です。それゆえ、本事業は多数の利用者の共有財産として定着すれば子育てを支援する地域保育ステーションとして、その存在意義が高く評価されるでしょう。そのためには、柔軟な発想転換が必要ですが、そのいくつかを次の通り提案いたします。

 第一に、乳児から小学校低学年児までなら誰もが利用できるよう登録料は無料にすべきですが、利用料もまた事務費程度に低く抑える必要があります。何故なら、一時保育や休日保育と異なり、在園児は既に市が定める保育料を納入しているからです。実施主体の市町村には新たなコストがかかりますが、新たに負担を求められる家庭が利用を控えたり、敢えて在籍する保育園に病後児を預けることも危惧され、その結果病後児保育室より通常保育園の方に体調の悪い子どもが登園するような異常事態も予測されるからです。

 第二に、かかりつけ医の連絡票利用には、健康保険の適用など何らかの基準が必要です。先行する全国各地の自治体でも、ルールが統一されていないこともあって、医療機関によってはスムーズにいかない場合が出ています。特に病後児保育の推進には、この連絡票の活用にかかっているといっても過言ではありません。

 そして第三ですが、本来看護婦は医師の指示により、医療行為を補佐する役割で、乳幼児の発達を保障する専門性は求められていません。例えば乳児保育には保育士、または看護婦とありますが、保育計画や指導計画を立てる際に発達を押さえた専門性が要求されますので、その力を発揮するには不十分です。

 いま子育て支援を視野に入れた保育士制度の見直しが議論されていますが、二年間の保育臨床の上に看護学を乗せた「保育看護士」とすれば、保育と看護を両立する高度な専門性が期待できるはずです。例えば「保育福祉士」「保育心理士」等とともに、保育看護士職として機能すれば、病後児保育の主力人材として最適でしょうね。

 

 

 

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