特集(2003年3月1日号)  

●年に4回発行の「さがみ愛育会情報誌」より、特集記事をお伝えします。

 

特集 ”少子高齢社会における複合施設の役割”

―世代間交流の日常化を目指す複合施設の現場から―

 

 夕方、近くのスーパーに買い物に行った母と娘。我が子が知らないおばあさんに駆けより、何やら親しそうに話している場面があったそうです。後で誰と話していたのか娘に質すと、園の世代間交流の場面から、仲良しになったAさんとのこと。とても感激したとあるお母さんから報告がありました。

 核家族に育つ子と、祖父母が同居、近居する子との違いって何でしょう。例えば、遊びの発想が柔軟だったり、個性的な表情が豊かだったり、人への思いやりや優しさがあるとすれば、それは父母とは違う祖父母の存在など関係性の幅に広がりがあるからかもしれません。  

 来るべき高齢化社会に対応し、保育所に老人デイサービス事業の複合化政策が推進されたのは、平成5〜6年頃でした。当時議論されていた老人福祉は、収容型の措置構造から、通所や訪問など在宅支援活動の広がりや地域福祉活動への転換にあったからです。そのため市町村が策定するゴールドプランを推進するため、全国に点在する保育所に複合施設化への条件整備を行うことになりました。

 処で、保育所と老人デイサービスの共通点といえば、第一に福祉を基盤にすること、つまり対象こそ違え、人が人を援助する基本理念が根底にあり、社会福祉法人という共通基盤があることです。第二に両者とも住みなれた地域に所在すること、第三に日常生活を支援する福祉サ―ビスにあるということでしょうか。ですから当園は、待機児の多い保育所ですが、あえて平成7年、地域福祉や世代間交流を目標にデイサービスセンターを設置、複合しました。

 きっかけは園が、既に70年代から続けてきた市内の特別養護老人ホームとの交流や地区内独居老人宅への訪問活動等を通じ蓄積してきた交流ノウハウがあったからです。しかしそうした交流には、福祉的な役割を担う保育効果が期待される反面、ややもすると緊張するイベント的な場面に陥りやすい傾向があります。

 とりわけ、核家族に育つ子ども達への保育課題や介護度が重く心身が弱くなった高齢者との交流をイメージする時、もっと自然体の場面で日常交流する必要があることを痛切に感じるのです。しかも複合化は、交流場面の評価を保育者側による一方的な視点に留めず、同時に両サイトから効果測定できるという利点を持っていたのです。

 あれから8年、福祉改革の大きな流れは、介護保険や支援費制度にしても、新会計基準や第三者評価にしても、子ども、障害者、高齢者それぞれ領域ごとに対象区分し、輪切り状態に分断する傾向が加速しています。

 深刻な少子高齢社会であればこそ、複合化の真意を検証し、地域福祉的な活動を強力に推進すべきですが、私達の意に反し改革の方向は、合理性を追求するあまり、形骸化した直接サービスに偏る傾向が危惧されます。それゆえ今回は、全国各地の複合施設を中心に実地調査を進めている数少ない研究者、北村安樹子さんにお願いして、次のコメントを寄せていただきました。

 

 家族や地域社会の変化にともなって、私達の日常生活からは、世代の異なる者同士が互いに関わりあう場面が次第に失われています。育児支援という点においても、子どもたちだけでなく、その親世代を育む上で、地域社会のゆるやかな福祉力を醸成していくことが求められています。こうしたなか近年、教育や福祉の分野では、子どもと高齢者のふれあいを促す様々な取り組みが始まっています。教育分野では、小学生が総合学習の時間に老人ホームを訪れたり、高校生が地域の商店街で高齢者を含む地域の人々と関わりながら就労体験する試みが行われています。福祉の分野でも、幼老共生ケアとも呼べるいくつかの取り組みが行われています。その一つが、子どもの施設と高齢者の施設を合築、併設する「幼老施設の複合化」です。

 例えば、老人福祉施設を併設する保育園は、2000年時点で全国に564ヶ所あります。1997年には、316ヶ所でしたから、三年間で250ヶ所近く増加しています。幼老複合施設には、保育園以外にも、児童館と特別養護老人ホ―ム、小学校とデイサービスセンターなど、様々な事例があります。複合化は、土地や既存施設の有効活用と言った経済的な理由から始まった動きでもありますが、一方ではこれまで縦割りでしか行われてこなかったソフト面(ケア)を融合する契機にもなっています。つまり、子どもは子ども、高齢者は高齢者、などと年令によって一律にグループ分けするのではなく、双方がふれあうことによって、別々では得られないような効果を互いに与え合うことができるのではないかという視点です。

 私は、全国の様々な幼老複合施設を訪問して交流の実態を調査していますが、高齢者と子どもが関わりあうことの重要性を認識し、交流を促すための取り組みを積極的に行っている施設がある一方で、複合施設でありながら全く交流のない施設もあります。交流を実践している施設では、子ども達とのふれあいが高齢者に刺激や生きがいをもたらし、高齢者とのふれあいが子ども達に思いやりや優しさを育んでいます。また、施設内の交流が施設外への交流に結びついたり、交流の輪が利用者の家族や地域住民に広がっているケースもあります。つまり、施設での交流が、人や範囲という点でヨコへの広がりを生んでいるのです。また、子ども達が成長して施設を出た後を見据えて、時間軸という縦への広がりを視野に入れて交流に取り組む施設もあります。  

 処が、こうした取り組みを評価する仕組みはなく、その実践は関係者の意識に委ねられているのが実情です。施設利用者へのケアの質を高め、地域福祉の向上にもつながるこうした取り組みを評価する仕組みが必要です。また、幼老共生は、幼老「強制」ではありません。その点で、セッティングしたイベント的な交流を、自然で日常的なものにつなげていくにはどうしたらいいのかという問題に多くに施設が悩んでいます。そういう実態や先進事例のとりくみをに関する発展プロセスを調査し、分析する作業も必要です。

 こうした取り組みは、いずれも年齢や障害によって居場所が区別されるのでなく、さまざまな人々がともに支え合いながらいきる社会をめざすノーマライゼーションの理念にも通じています。また、これまで縦割りで進められてきたものを横断的に融合していこうとする点で、ケアのあり方や行政システムの方向性に大きな問題を提起していると言えるでしょう。   

(株)第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部   研究開発室  北村 安樹子

 北村氏も指摘するように、複合施設を評価する仕組みはありません。根本的には、縦割りの行政システムに問題があるのですが、そのため自らが事業を開示し、自己評価する姿勢が大切になります。ここでは、複合する悠々デイサービスセンターとの交流経過から、検証してみることに致しましょう。

 毎朝、悠々はリフトつきワゴン車が利用者のご家庭に迎えに行く処から始まります。きっと初めての高齢者にとっては、活気あふれる子ども達の歓声やダイナミックな活動場面にかっての幼い自分を思い出す機会になるのでしょうか、次回からほんのり口紅をつけたり、杖なしで歩いてみせたり、無意識のうちに自分を変えようとする心情が甦ってくるようです。

 さらに2階のブリッチを渡るとそこは乳児室ですが、嫁との折合いが悪く孫を一度も抱かせてもらえなかったという利用者の膝を求め、這い這いしてくる赤ちゃんがいます。ちょうど人見知りピークの月齢なのに、不思議と警戒心を抱かせない高齢者の存在を、一体どう理解したらいいのでしょう。きっと人の痴呆が始まる位の年令になれば、管理的な契約社会に生きてきた無意識のうちの武装的な雰囲気が消え、限りなく原体験の世界となる子ども性に近づくように思います。

 そんな感性とか情緒による表情や動作には、幼い子どもの心と共通する「相性」関係が生まれるのではないかと仮説を立ててみたのです。それらを実証するため、モデル試行を繰り返しつつ、やがて一番リラックスしやすい昼休みの時間帯に約30分程度、それも年長児4〜5名が訪問する方式を採用しました。

 特に集団対集団の構図でなく、個対個の特定関係を育むよう曜日ごとに利用者と子どもを組み合わせたものですが、その結果「おじいさん、おばあさん」という呼称から個人名で呼び合う関係にまで発展するのです。

 因みに、交流場面での遊びといえばオセロ、トランプ、あやとり、折り紙、お手玉等が定番ですが、風船バレーやドミノゲームも人気があるようです。もちろん子どもが苦手な高齢者や一人遊びに夢中な子もいますので、交流の強制はせず、当初は職員がコーディネートしたり、見学スタイルも許容していますが、いつのまにか苦手同士が一緒に遊んだりするような場面さえ生まれたりもします。こうして世代間交流は、孤立しがちな高齢者に新鮮な刺激や、生命の息吹を感じさせたり、幼い自分を思い出すきっかけになる等、新たなパワーが生まれるといいます。一方、子どもにも、領域「人間関係」の育ちと拡大、そして人の気持を理解しようとする福祉的な心情を育む有効な機会になっているのでしょう。

いま日本では、いずれ高齢社会を担う子どもの育ちが課題ですが、そこでは高齢者は扶養される存在となり、扶養する労働力としての子どもを位置づけています。確かに、未来社会の財政的側面は深刻ですが、仮に経済を枝葉の問題とするなら、高齢者のもつ豊かな経験や知恵、技能などが生かされ、社会で重んじられる存在になるはずです。それゆえ、複合施設は、施設機能や調理、事務、経理、人事の領域はもちろんですが、特に世代間交流の日常化を促進する相乗効果を活性化させなければなりません。それが少子高齢社会を克服する大きな基盤になるからです。

 

 

もどる