アメリカの子育て事情(5

 今から20年ほど前、サンタモニカ地区裁判所で幼い我が子を道ずれに近くの海岸へ入水自殺を試みた30代の母親(日本人)の裁判が結審した。この裁判の争点は、二人の我が子が亡くなり母親が命をとりとめたことにある。法廷は第1級殺人罪の最高刑(死刑)を適用すべきかどうかで紛糾した。

 被告と弁護士を除いて、裁判官、検察官,賠審員(12人)らは,アメリカ人であるから、そのまま裁判が進行すれば、死刑か終身刑である。しかし弁護士は伝統的な日本の母子一体,不可分の文化を法廷の賠審員に訴え、有罪ではあるが第2級殺人罪(日本の過失致死罪)が適用された。

 今度は2年前のことである。ロサンゼルス郡上級裁判所(日本の高裁に当たる)は,幼い我が子を台所に集め、ガソリンをまき火をつけ焼死させた母親に第1級の殺人罪(死刑)の判決を下した。被告は,自分の娘達を捨てて他の女性に走った夫に復讐する目的で犯行を決行したと主張した。夫の不倫で,妻が犯行に及んだ点で日米の母親の心理は共通しているようだ。

 しかし裁判で争われる犯行は、加害者が犯行時に心神喪失の状態にあったかどうかということにある。最近、10代の若者の犯罪にもこのような犯行時に何も覚えていないと言う「キレる状態」から殺人に至る事例が多い。精神科の専門用語でこれを"かい離"という。

 これは本来,自分自身のものであり、一つであるべき"感情、感覚、運動、思考"の統合が障害されてバラバラになってしまったという意味である。このかい離が,最も深刻な状態で生じたものが多重人格である。最近、母性が失われ神話時代の遺物になったという研究者もいるが、常識的には母親が自分の子どもに手をかけるなど信じられないことである。

 もともと、人間を含む霊長類の女性(メス)は,生物的な姓、社会的な姓、そして個人としての個性の3つを担って生きている。こうしてみると保険金詐欺事件などは生物的な姓が男によって歪められ、かい離現象が生じた結果、犯行に及んだものと推察されるのだが、、、、。  

− FROM 福桝 利郎 (医学博士) −

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